「外伝、閣下で三国統一を目指してみる 14.1話」第二伝


届いた!トゥーシャイシャイボーイさん(仮)の閣下で三国統一SS第二弾が届いた!
という事で早速のっけさせてもらっちゃうのさ!
ああそうさ、
「これだけのモノなんだから、ご自分でサイトを持たれた方が‥‥」
という説得は再度失敗さ!
こういうの、何て言うか知ってるかい?


濡れ手に粟っていうんだぜ (゚Д゚)大量のアクセスウマー


という事で、僕が開き直った件は置いといて、軽ーく注意書きです。

これは、呂凱P作「★閣下で三国統一を目指してみるシリーズ」を元に描かれた創作三次小説です。
そーいうのが苦手な方はなんだかんだ。でも面白いから読め。以上。

よし、これだバッチリだ!
では「続きを読む」からGo!
「続きを読む」がなかったら(゚ε゚)キニシナイ!!でGo!




1.


腕が重い。肺が焼ける。まるで、全身に鉛を括りつけているかのようだった。
劉焉、どこだ。そう叫んだつもりだったが、声は出なかった。
いたぞ、劉焉だ。兵の声がした。前方に、劉の旗。旗本が小さく固まり、鬼気迫る形相で抗戦している。
考える前に、真は軍を進めていた。
あそこに、劉焉がいる。奴さえ倒せば、成都が手に入る。勝てるのだ。
劉焉の本隊に、ぶつかった。斬りかかって来た敵兵を二人、同時に斬り捨てる。しかし、自軍の兵もまた斃される。
さすがに、強い。真は、咆哮をあげ、馬上で無心に槍を振るった。
兵たちは、既に限界を越えていた。もう五日以上も寝ずに戦い続けている。
全身の具足は泥と血に塗れ、赤黒く染まっていた。それは敵の返り血であり、自身の血痕でもあった。
視界が霞む。自分がなにをしているのかすら、わからない。だから、目の前にいる兵を斬った。それだけが、精一杯だった。
不意に、視界が闇に包まれた。なぜだ。手足を動かし、必死にもがく。土の感触。真は、地に倒れ伏していた。
真の馬は、さらに前方にいた。脚を骨折したのか、不自然な格好で蹲っている。そこで、初めて自分が落馬したことに気が付いた。
体が、宙に浮き上がる。違う。兵たちに、抱え起こされたのだ。
「劉焉は、どこだ」
探そうとした。首が、動かなかった。頭の中が白じんでいく。
こんなところで、気を失ってたまるか。舌を噛み気を保とうとしたが、薄れゆく意識を留めることは出来なかった。
意識が完全に闇の中へ落ちるその間際。春香の率いる騎馬隊が、劉焉の軍を飲み込む光景だけが見て取れた。



「外伝、閣下で三国統一を目指してみる 14.1話」
第二伝



劉焉の葬儀には、十万人以上の者たちが参列した。
皆一様に大粒の涙を流し、劉焉の死を嘆き悲しんでいた。
休む暇もなく、反乱が起こった。どれも、劉焉を慕っていた農民や豪族たちが起こした反乱だった。
春香は、それらを一つ一つ丁寧に潰した。
真の軍も、何度も出動した。農民を斬ったのはこれが初めてのことで、後味の悪い戦いだった。しかし、乱世なのだ。国を奪い取るとは、こういうことだ。真は、自分自身をそうやって納得させた。
春香は、善政を敷いている。それでも、小さな反乱は後を絶たなかった。それだけ、劉焉が慕われていたということなのだろう。
春香の部屋に訪れていた真は、春香と二人並び立ち、眼下に広がる成都の城郭を眺めていた。
ここに、十七万もの人々が暮らし、日々日常を過ごしている。不思議な気持ちだった。これが、国というものなのだろうか。
「劉焉って、どんな人だったんだろう」
真は、自問するようにそう言った。劉焉に会ったことはない。直に話をしたことがあるのは、春香だけらしい。
春香は、真の問いかけを聞き、ちょっと考える素振りを見せた。
「ねえ、真。本当に優れた統治者とは、どんな人間だと思う?」
「え? えっと、頭がよくて、えーと……器が大きい人、とか?」
いきなり尋ねられも、よくわからなかった。春香のような人間、ということだけはわかる。
春香は、真を見て小さく笑った。
「あれを、御覧なさい」
春香の指差した先には、子供たちが数人集まり、楽しそうに遊んでいた。
可愛らしい笑顔だ。子供を見ると、気持ちが和む。
「ねえ、良い笑顔でしょう。世を去ってもなお、子供に笑顔を失わさせずにいる。それ以上に、優れた統治者の証はあるかしら」
小さく笑みを浮かべ、春香は白乳色をした成都の曇り空を仰いだ。
「私は、この街に来てなにもしていない。国を栄えさせるためにするべきことは、全て劉焉がしていたからね。あの子たちの笑顔は、私が作ったものじゃない。それが、ちょっとだけ悔しいわ」
春香は、遠い目をした。風が吹く。春先の暖かい風が、春香の髪をかすかに揺らした。
「乱世とは、愚かしいものね。才ある者から、順に死んでゆく」
「春香……」
春香は、遠くに広がる山の稜線を眺めていた。いや、さらにその先のなにかを見据えているのかもしれない。その揺るぎない瞳には、迷いがなかった。
「二ヶ月以内に武都を陥とします。軍の調練を急ぎなさい、真」
「直ちに」
真は拝礼をして、部屋を出た。
軍の調練。その言葉は、先の戦を終えた後、絶えず真の脳裏に刻まれていた言葉だった。


騎馬隊の、模擬戦である。
相手は、張遼の騎馬隊一千だった。真と美希は、それぞれ二千の騎兵を率い、張遼相手に戦っている。
「斥候を出して。前後左右、あらゆるところにだ」
張遼の軍は、見失っていた。起伏の多い、丘である。林や木々も多く、伏兵を置くには都合のよい場所だった。
だが、この付近にいるはずだ。真は、あらかじめ美希と相談し、張遼の軍を囲むように動いていた。
伏兵を見逃さないよう、気をつけながら軍を進める。馬蹄の音。遠い。美希が、遭遇したのか。
真は、急ぎ軍を進めた。
いた。張遼の軍だ。凄まじい勢いで、待ち構えている美希の軍に向かっている。
「鶴翼だ。張遼軍を押し包む」
美希が張遼の軍を足止めしている間に、包囲する。それも、打ち合わせていたことだった。
陣が、翼を広げた鳥ような鶴翼の陣形に広がる。いける。そう思った瞬間、張遼の騎馬隊が反転した。一矢の乱れすらない、鮮やかな動きだった。慌てて軍を小さく固めようとした時には、既に真の軍は蹴散らされていた。
陣を立て直そうと声を張り上げるが、張遼軍の勢いは凄まじく、真軍は縦横にかき乱され、完全に指揮系統が混乱していた。
不意に、張遼軍がその場から離脱する。
その後を、美希の騎馬隊が怒涛の勢いで追っていった。
「美希、待て!」
声をかけたが、既に美希軍の姿は遠ざかっていた。
真は必死に軍を立て直そうとしたが、時間がかかりそうだった。落馬した者も、かなりいる。
二人は、どうなった。美希が気になり、そちらへ目を向けた。
美希軍は、勢いよく張遼軍を追っていた。しかし、突然張遼軍が二つに割れて、左右それぞれに別れて駆けていった。美希の軍は、迷うことなく張の旗がない部隊を追った。張遼の率いていない分隊である。弱い方から片付けるつもりなのだろう。
そのまま美希は張遼軍の分隊を追っていたが、追いつけそうで追いつけない。
固唾を飲んで見ていた真は、次の瞬間目を見張った。
二つに別れた張遼軍の片割れが、いつの間にか美希軍の後ろに迫っていたのだ。
美希は、張遼軍を追いながら追われるという格好になっていた。わずらわしそうに、軍の速度を速めたり、緩めたりしているが、張遼軍は、その動きにぴたりと合わせている。
そうして美希軍は、ちょっとづつ最後尾の騎兵が追い打たれ、最後は張遼軍に包囲されて壊滅した。
三軍は、一箇所に集まった。真と美希の、惨敗である。
美希は、馬上で不貞腐れていた。まともにぶつかり合うことが出来なかったので、面白くないのだろう。
張遼がやってきた。威圧されるような覇気である。その鋭い眼光に、不貞腐れていた美希もたじろいでいる。
「まずは、真。一軍に相手を任せ、その隙に敵を包囲する。その着眼はいい。が、遅すぎる。あれだけ陣形の組み換えに手間取っていれば、いくらでも隙など見つかる。そこを突けば、陣を乱すのは簡単だ。勢いを失った騎馬隊など、なんの意味も持たん」
張遼の言うとおりだった。わずかな隙で、全てが崩れたのだ。
「そして美希、なぜ真を放って、こちらを追ってきた」
「えっと、早く倒した方がいいかなー、なんて」
「その先に伏兵がいたらどうするつもりだ。加えて、背後には陣を崩した真の軍がいた。状況にもよるが、あの場面では真の軍の立て直しが先決。そこから、連携を図って動くべきだ」
「はーい」
「まだ、二人とも動きに隙が多すぎる。将校たちとよく話しあい、十分に対策を練るようにしろ」
張遼が、その場から去っていった。
真は、己の不甲斐なさに項垂れた。美希は、唇を尖らせている。
調練を終えた後は、すぐに馬の世話に取り掛かった。
騎兵は、全てにおいて馬を優先する。調練を終えた馬には、十分な水と秣を与え、時間をかけて毛並みの手入れをする。人の食事や休憩は二の次である。
騎兵にとって、馬は全ての命運を握る存在だ。一匹でも動きの悪い馬がいると、軍全体の動きが悪くなるからだ。
なので、騎兵になれる者は限られる。馬が好きな者。馬に好かれる者だ。
美希も、馬の世話だけはしっかりとやる。楽しげな様子なので、馬が好きなのだろう。
真も、馬は好きだった。実家が馬牧場だったこともあり、扱いも心得ている。
調練を終えた真と美希は、成都の城郭に戻った。
「ふう……」
「真くん、元気ないね」
真を覗き見るように、美希が言った。
「そりゃ、あれだけ一方的に負けるとね。って、それは美希も同じじゃないか」
「だって、ライライ強すぎるんだもん。あんなの勝てるはずないの」
それは、同感だった。全てにおいて、自分たちと張遼の実力はかけ離れている。五倍を要する兵を率いていたとしても、張遼に打ち勝つ自信はなかった。
今日の調練でも、張遼は部隊の中心辺りで指揮に専念していた。もしも、実戦さながらに張遼自身が先頭に立ち軍を進めていたとすると、その時の張遼軍の強さは、考えるだけで背筋に冷たい汗が走る。
「もっと頑張らないと。師匠に勝てはしなくても、せめて認めてもらえるぐらいにはならないと。じゃないと、また……」
真は、成都の戦いで失った兵のことを思い出した。
あの戦で、多くの部下が死んだ。永昌の頃からの付き合いだった兵もいた。見知った顔も、ずいぶん減った。
戦をすれば、人は死ぬ。いつかの、祝融の言葉を思い出した。
それは、その通りだ。しかし、その犠牲の数を極力少なくするのが、将の仕事だ。あの犠牲は、自分が至らなかったせいだ。
「真くん? どうしたの?」
「え……いや、なんでもない」
真は、頭を振った。人に心配をかけているようではいけない。話題を変えることにしよう。
「ところで美希。なんか、歩き方が変じゃない?」
成都に着てから、時折美希が足を引きずったような動きをするのが気になっていた。
「聞かないでほしいの……」
その瞬間、美希の全身が白く染まったような気がした。目は虚ろになり、足取りも覚束なくなる。
よくよく思い出してみれば、春香のあの「おしおき」以後、美希はこうなった気がする。あの場所で、一体何があったのだろう。
想像するのが空恐ろしくなり、真は考えることをやめた。
「おっ、美希殿に真殿じゃないですか」
「鄂煥」
目の前に、のっそりと巨躯の男が現れた。元孟獲軍の鄂煥だ。孟獲と共に、天海軍に帰順した武将である。
鄂煥とは体格差がありすぎて、目の前に立たれると巨大な壁が立ちふさがったようにも見えた。
「がっちゃん、なにしてるの?」
「え? そりゃ、見回りですよ。でもこの城郭って平和すぎて、やることないんですけどね」
鄂煥が笑ってそう言った。
「巡回なら、馬に乗った方がいいんじゃないの?」
どうやら鄂煥は、歩いて街を巡回しているようだった。しかし、馬に乗っていた方が早く巡回できるし、有事があった際は、素早く駆けつけることが出来る。
「まあ、そうなんですけど。どうも俺は、あの馬ってのが苦手で。象なら簡単に乗れるんですけど、ここで乗るわけにもいかないしなあ」
「馬の気持ちを理解すればいいの。そうすれば、簡単に乗れるよ」
「理解しろって言われても。連中ぼーっとしてて、なに考えてるか見当つきませんよ」
「なんで? 馬の気持ちなんて、目を見ればすぐわかるのに」
首を傾げて、美希がそう言った。
「いやいや、そんな簡単にわかれば苦労しませんって」
「はは、まあそうだよね」
「えー? なんでー?」
心底不思議そうな顔をして、美希が声をあげた。たぶん、本当にわかるのだろう。
真も、馬に乗れるようになるには、ずいぶん苦労した。
馬は、賢い生き物だ。人の感情を読み、それに対して敏感に反応する。乗りこなせるようになるには、三年かかった気がする。
それでも、馬の感情が完全にわかるとは言えなかった。馬が喜んでいる、怒っている、悲しんでいる。そのぐらいならわかるが、美希が馬に関わっている様子を見ていると、どうも馬の感情を完全に理解しているように見えた。
それは、天性のものなのだろう。思えば、美希は全ての物事に対して同じような捉え方をしていた。
美希は、根っからの調練嫌いで、普段からろくに調練に出ようとしない。それでも、人並み以上に武芸や軍の指揮をこなしてしまう。
真には、到底真似の出来ない芸当だった。必死に稽古をして、調練を繰り返し、用兵術を学び、それでようやく人並み以上の場所に立てる程度なのだ。
天才という人間がいるのなら、それは美希のような者のことをいうのではないか。真は、時々そう考えることがあった。
美希や鄂煥と別れてから、明日以降の調練を考える。もっと、激しい調練を積まなければならない。
今日のようなことを繰り返していたら、また兵が犠牲になってしまう。
「なんとか、しなくちゃ……」
一人呟き、真は帰路についた。



2.


連日の調練だった。
とにかく、騎馬隊の動きを一体化させなければならない。原野を右に、左に駆け回り、素早く陣形を変える。
少しでも動きが遅れた者は、罰した。全ては、戦場で死なないためだ。
「動きが遅い。戦場に、死にに行くつもりか!」
激をとばし、今度は隊を二つに別け、互いにぶつかり合う調練をした。
わずかにでも隙が見えた兵は、容赦なく馬から叩き落した。怪我人は、必ずといっていいほど出たが、酷くても肋が折れた程度の軽い怪我なので、調練は休ませない。
朝は夜明け前に成都の城郭から出て、深夜半まで日がな一日調練を積む。それを、毎日繰り返した。
真も辛かったが、それはおくびにも出さなかった。とにかく今は、兵を強くしなければならないのだ。
二度と、兵を無駄に死なせはしない。それだけが、真の心を支えていた。
それで、強くなるはずだった。しかし、兵の動きは日に日に精彩を欠いていった。
憤り兵を叱咤するも、動きは鈍さは悪化する一方だった。
なぜだ。自問自答しながらも、調練は続けた。体を休めるための、最低限の時間は与えている。なのに、なぜ。
数日後、美希の部隊と模擬線を行なうことになった。これまでの成果を見せる時だ。真は、気を引き締めた。
美希が率いる軍は、勢いに乗れば信じがたいほどに強くなる。兵の強さ、美希の武勇。それとは別の、戦いの流れに乗るなにかがあるのだ。不用意に懐に入り込まれれば、かなりの痛手を受けるだろう。
そうなる前に、掻き乱すことだった。美希軍は一度瓦解しはじめると、これまた止められなくなるからだ。良い意味でも悪い意味でも、勢いがありすぎるということだ。
真は、美希軍の周囲を回るように駆けながら、すこしづつ距離を詰めていった。美希は、攻め所が見出せないのか、軍を小さく固めてこちらの様子を窺っている。
一度、軽くぶつかるか。そうすれば、焦った美希はこちらを追ってくるはずだ。その時に別働隊を五百出し、美希軍の脇腹を突くようにして攻める。そうすれば、すぐにでも美希軍は浮き足立つだろう。
すぐに、実行に移した。軽く一度軍をぶつけ、すぐに離脱する。案の定、美希は全速力でこちらを追ってきた。いける。
真は、別働隊を出そうと右手を上げた。その瞬間、背後から凄まじい衝撃が伝わってくる。
なんだ。振り向く。美希軍だが、いつの間にか真の軍の最後尾に喰らい付いていた。速い。
真は、槍を水平に掲げた。隊が二つに割れ、左右に別れる。これで、どうだ。
「……!?」
声も出さずに、真は驚愕した。美希もまた、隊を二つに別けて追ってきたのだ。
どうする。必死に考える。とにかく、この追われる形をなんとかしなければならない。まずは、美希を引き離す。
真は、全速で馬を走らせるように命じた。これまで、馬も兵も限界寸前の調練を積んできたのだ。引き離すことぐらい、すぐに出来る。攻撃しながら追っている分、美希軍の消耗は大きいはずだ。
しかし、引き離せなかった。いや、逆に差が縮まっているではないか。
「どうした、急げ!」 
真は、声を張り上げた。兵と馬は、必死に駆けている。それでも速度は上がらず、徐々に遅れる者が出始めた。
「どうして」
震える声で、真は呟いた。既に、半数以上の兵が美希軍に突き落とされている。
頭の中が白くなった。どうすればいい。どうすれば。
真は、軍の最後尾まで下がった。こうなれば、自分がしんがりとして軍を立てなおすしかない。
調練用の槍を構える。さあ、こい。背後の美希軍を睨みつける。
突然、真軍が止まった。真は、馬から投げ出される。なにがあった。
前方。新手の美希軍。半数に別れたもう一隊か。馬鹿な。こちらの分隊は、どうしたというのだ。
戸惑う暇もなく、背後から美希軍が一斉に押し寄せてきた。あとはもう、成す術もなく崩されただけだった。
間を置かず、真軍は壊滅した。圧倒的な敗北だ。
調練を終えて、真は軍を集めた。話を聞くと、真が別けた分隊を追っていたのは、美希が率いる本体だったらしい。
すぐに追いつかれ、散々に打ちのめされ、返す刀で真の本隊を挟み撃ったようだ。
完敗だった。美希の軍との模擬戦で負けたのは、これが初めてのことだ。
なぜ、負けた。調練が終わった後、真は一人でずっと考えていた。
兵の練度は、こちらが上のはずだ。兵の指揮にしたって、自分が美希に劣っているとは思わない。なのに、なぜ。
深く沈みこむ真の元に、美希が訪れた。
「あの……真くん、調子悪いの?」
「ごめん、美希。ちょっと、今はほっといてくれ」
「う、うん。その、元気だしてね?」
すごすごと、美希は去っていった。
強烈な自己嫌悪が、真を襲ってくる。自分はなにをしているのだ。心配してくれた美希に、八つ当たりをするなんて。
歯を食いしばり、真は膝を抱えた。
背後に、気配。振り向く。そこには、無表情で真を見おろす張遼の姿があった。
「し、師匠。見ていたんですか」
「無様なものだな、真」
真の言葉には取り合わず、張遼はそう呟いた。心に、鋭く硬いなにかが突き刺さる。
「必死に足掻いて、この体たらくか。今のお前が率いては、兵も無為に死ぬだけだろうな」
返す言葉もなかった。張遼の言うとおりだ。これが実戦なら、部下は全滅していた。
「真よ。お前は、傲慢だ」
「ボクが、傲慢……?」
「兵を生かしているという驕りを捨てよ。将は、時として部下に死に場所を与えねばならぬこともある。しかし、兵とは己自身であり、無二の友でもあるのだ。そんなことすら解さぬお前に、軍を指揮する資格はない」
張遼は、そのまま背を向けた。厳格な背中。その背が、真の動きを縛り付けていた。
手が、震えていた。拳を握り締めても、手の震えは止まらなかった。
「兵を信じろ。兵には、自分を信じさせろ。互いの信頼なくして、将は成り立たん」
それだけ言い残し、張遼は去った。後に残された真は、その場に崩れ落ちた。
やはり、自分のような凡人が一軍を預かるなど、無理があったのではないか。ここが、自分の限界なのではないか。
脳裏に描かれる光景は、今は懐かしい涼州の故郷だった。父と、母の顔が見え隠れする。帰りたい。真は、無性にそう思った。
どれほどそうしていたのか。気が付けば、あたりは薄暗くなっていた。
兵たちは、夜営の準備をしているようだ。かすかな物音が聞こえる。
暗闇の中、真は一人佇んでいた。なにも、考えてなどいない。そんな気力もない。ただ、訳もなく立ち尽くしているだけだ。
「そこにいるのは、真殿ですかな?」
声がした。誰だろう。暗く沈んだ頭で、振り返る。阿会喃だった。真のことを、不思議そうに見ている。
「どうされましたか、元気がないですね。なにかありましたかな?」
「……ちょっと、疲れちゃって」
それだけ言うのが、精一杯だった。
「そうですか」
そう言って、阿会喃は言葉を切った。そのまま、辺りを軽く見渡す。
「ちょっと陣を見て周りましたが、少しばかり皆の表情が暗いですな」
「え?」
「皆、道を見失っているのですな。暗闇の中で、不安げに手を差し伸ばしながら歩いているようなものです」
道を見失っている。その通りだ。でもそれは、兵のことではなく、自分のことだった。
これから、なにをすればいいのかわからない。なにもしないほうが、ずっといいのではないか。とりとめもなく、そんな考えだけが湧いて出る。
「どうでしょう、真殿。ここは一つ、宴でも開きませんか? 兵たちも、それで気持ちが楽になると思いますが」
「宴……でも、今は調練をしなくちゃいけない時で」
「真殿」
阿会喃が、表情を改めた。その眼の光に、真は圧倒された。
どこまで深い、黒曜石のように黒い瞳。吸い込まれそうだった。まるで、自分の全てが見透かされているような気持ちになる。
「今の兵たちは、苦しそうだと思いませんか」
夜営の支度をしている兵たちを指差し、阿会喃はそう言った。
「気を引き締めるべき調練中ならばともかく、一日の調練を終えた今この瞬間でさえ、兵たちの間では笑い声一つ上がっていない。身も心も疲れ果て、明日の調練に気を重くしているだけです」
兵たちの顔を眺める。皆、疲れた顔をしていた。
はた、と真は気づく。こうして兵の顔を眺めることが、ここ最近あっただろうかと。
「そんな兵たちの気持ちが、理解できませんか」
阿会喃の言葉に、意識がゆり戻される。兵の気持ち。雲南にいた頃は、当たり前のように感じていたその気持ち。それを、忘れてはいないのか。
「そうであるならば、真殿。あなたと、ここにいる兵たちは、心が離れてしまっている」
真は、再び崩れ落ちそうになった膝を、なんとか押さえ込んだ。
いつだ。いつからだ。
いつから、ボクは自分のことしか見えない人間になったんだ。
兵を、死なせたくない。悲しい思いをしたくない。そんな、個人的な気持ちを、兵に押し付けはじめたのはいつからだ。
兵士たちを守るために厳しい調練を与えていたのではない。自信の心を守るために、兵に無理強いをさせていたのだ。
ボクは、最低の人間だ。真は、自身に対する怒りで打ち震えた。
「どうすれば、いいんだろう」
「それは、あなた自身が考えることでしょう」
微笑み、阿会喃はそう言った。その柔らかい言葉のおかげで、真は冷静になることが出来た。
阿会喃は、宴と言った。雲南にいたころは、よくやった。あの頃は、皆笑顔を浮かべていた。
「二千人で宴をするには、どれぐらい準備に時間がかかるかな」
「ご心配なく。ちょうどこの近くに、飲食物を大量に扱っている知り合いの商人がいます。その者に頼めば、明日には用意してくれるでしょう。真殿さえよろしければ、話は通しておきますぞ」
落ち着いた声で、阿会喃がそう答えた。真は、自分が安心していることに気が付いた。阿会喃の言葉には、人を落ち着かせる力がある気がする。
「どうされますか?」
「……ありがとう、阿会喃。お願いしていいかな」
「お任せくだされ!」
 阿会喃は、にこやかに笑って力強く胸を叩いた。
「では、早速商人のところに行って参ります。……ああ、そうだ。これでも食べて、元気を出してくだされ。大将がそんな顔では、部下が不安に思いますぞ」
阿会喃は、懐から竹の包みを取り出すと、真に手渡してその場を去った。
それを見届けてから、真は竹の包みを開いてみた。
「あは……おにぎりだ」
中から出てきたのは、なんの変哲もない、ただのおにぎりだった。それが、三つ並んでいる。
真は、おにぎりを一口食べてみた。驚くほどに、美味かった。
なんも具の入ってない、ただ塩を振っただけの握り飯だ。それが、どうしてこれほど美味しいのか。心の重圧が、わずかなりとも取り除かれたからだろうか。
真は、包みに入っていたおにぎりを全てたいらげると、軍の副長を呼んだ。
「すまないけど、皆を集めてほしい」
すぐに、兵が真の前に集められた。改めて、真は兵士たちの顔を見渡した。
みんな頬が痩せこけ、疲れきった顔をしていた。目には、暗い光が浮かんでいる。
真は、心が張り裂けそうになった。一体、自分は今までなにをしていたのか。執拗に兵を追い詰め、磨耗させ、その先になにを見出そうとしていたのか。
真は、意を決して口を開いた。
「今日まで、よく過酷な調練についてきてくれた。本当に、ありがとう。急だが、明日の調練は中止する。その代わり、宴を開きたいと思う。みんな、ぜひ参加してほしい」
兵士たちが、ざわめいた。戸惑いの表情を浮かべながら、小声で囁きあっている。
そのざわめきが次第に大きくなり、歓声に変わった。
「後は、よろしく頼む」
副長に事後を任せ、真はその場から背を向けた。
その足で、早馬を飛ばし成都の政庁へ向かい、春香に会った。宴の許可を貰うためだ。
自分の進退を懸けてでも、春香には許可を貰うつもりだった。しかし、拍子抜けするほど呆気なく許可がもらえた。あまりに簡単に返事をもらえたので、逆に真が戸惑ってしまうほどだった。
春香に礼を言い、真は兵たちの元に戻った。
そこには、調練を終えたばかりで疲れているというのに、生き生きとした兵士たちの姿があった。



3.


翌朝。その日は、この地方にしては珍しく雲一つない快晴で、どこまでも深い紺碧の青空が広がっていた。空を舞う鳶も、気持ち良さそうに鳴いている。
宴を行なう場所は、夜営に使っているこの草原で行なうことになった。
朝から、大量の酒や食料が運び込まれ、給仕たちは大忙しで調理にとりかかっている。
運びこまれ食材は、大量のものだった。近くに商家があったとしても、昨日の今日で用意できるものなのだろうか。ひょっとしたら、阿会喃は事前にすべて準備していたのかもしれない。
兵士は、見張りを行なっている者以外、武器の手入れをしたり、雑談をしたり、草原に横たわり昼寝をしていたりと、各人が思い思いに休暇を楽しんでいる。
真も同じように休んでいると、張遼がやって来たという報が入った。突然の来訪に、真は慌てて張遼を迎えた。
「師匠」
「宴をするのか」
「ごめんなさい、師匠。こんな大事な時期に、勝手なことをしてしまって」
「なぜ謝る。お前が考え、至った結論なのだろう?」
「違います。ぜんぶ、阿会喃が助言してくれたおかげです」
「阿会喃殿が、この宴を開いたのか?」
「開いたのはボクですけど、それも阿会喃が言ってくれなければ、思いつきもしませんでした」
「ならばよい。決断を下したのは、お前だ。必要だと思ったから、宴を開いたのだろう」
「はい」
「それでよいのだ、真」
真は、張遼が持っている瓶に気が付いた。
「師匠、それは?」
「これか。長安の銘酒が手に入ったのでな。お前に飲ませてやろうと思ったのだが……どうやら、心配することもなかったようだな」
そう言って、張遼は笑った。
胸に、熱いなにかがこみ上げてきた。まずい。顔を伏せ、口元を押さえる。
「そんなこと、そんなことないです」
わずかに滲んだ瞳を拭い、くぐもった声で真は答えた。嗚咽は堪えたが、揺らぐ視界は止めようもなかった。
張遼はただ黙し、真を静かに見守っていた。
真はその場から去り、近くの水場で顔を洗い、輝く水面を眺めていた。
張遼は、こんな自分をずっと心配してくれたのだ。それが、嬉しかった。
しばらくしてから、真は広場に戻った。そこで、甲冑を脱ぎ、腕まくりをして鍋と食材を運んでいる張遼を見つけた。
「師匠、なにをしているんですか?」、
「私も、一つ料理をつくろうと思ってな。鍋料理だ。少々雑だが、味は保証しよう」
張遼殿が、料理をつくるのですか」
背後から声がした。振り向いた先には、阿会喃がいた。
「おお、これは阿会喃殿。このたびは、真が世話になったようだ。礼を申し上げたい」
「なんの。私は、ちょっと真殿に口ぞえをしただけですぞ。すべては、真殿の決断です」
「そんなことないよ、阿会喃。阿会喃がいなければ、ボクはもっと酷いことになっていた。本当に感謝しているんだ」
「ははは、そこまで言われると、照れてしまいますな。それはそうと張遼殿、すこし話が聞こえたのですが、料理をつくるそうですな」
「ええ、鍋をつくろうかと」
「よろしければ、私も手伝いましょうか。こう見えて、料理は得意でしてな」
「これは、ありがたい。では、お言葉に甘えるとしよう」
「あっ、じゃあボクも」
「真、お前は兵たちと話をしてこい。こんな時でしか、話せぬこともあるはずだ」
「……うん、わかった」
真は、兵たちの元を訪れ、色々な話をした。
普段聞くような調練の話から、初めて聞くような悩み、喜びの声、私生活の話などを聞いた。
当然のようだが、兵士たちはそれぞれの人生を歩み、悩みを抱え、笑い、それでも生きている。
そんな簡単で、大事なことにを忘れていた。恥ずべきことだった。だから、今までの分を取り返すように、多くの兵士と話した。
夕刻である。西の山の山頂に浮かぶ夕陽は、眩いほどの陽光で草原を紅く照らしていた。
料理は大部分が出来上がったようで、兵たちは宴の開始を、今か今かと待ちわびていた。
やがて、準備が整ったという報が伝わり、兵たちはそれぞれ酒に満たされた杯を持った。
「真。兵に、なにか声をかけてやれ」
「えっ……はい、わかりました」
張遼に促され、真も酒の入った杯を持ち、兵の前に立った。
兵たちが真に注目し、場が静まり返る。
「……前回の戦では、多くの犠牲を払った。友を失った者、部下を失った者も多いと思う」
その顔ぶれを思い出し、深く心にしまいこんだ。悩んでも、悲しんでも、悔やんでも、死者は二度と帰ってこない。
「ボクの、不徳だ」
俯き、今は亡き兵たちに向けて、心の中で別れを告げた。
「これからも、常に犠牲は出続けると思う。戦で死んでしまうかもしれない。二度と、戦うことの出来ない体になるかもしれない。それでも、ボクは戦う。それは、なぜだと思う」
真は、全てを抱くように手を広げた。
「天海軍が……ボクたちの、この国が大好きだからだ」
真が国という言葉を使った瞬間、兵たちの顔つきが明らか変わった。
そう、国だ。ここは、一つの国なのだ。春香を中心に集った者たちの国家。その中で、自分たちは結ばれている。一つの、絆が出来ている。
「どうか、これからもボクを支えてほしい。共に戦ってほしい。そして、共に勝利の喜びを抱きたい。皆、今日は思いっきり食べて、思いっきり飲もう!」
真は、杯を掲げた。その直後、大地が割れ響かんばかりの歓声が辺りに響いた。
こうして、宴が始まった。


しばらく酒を飲んでいると、屈強な男たちの一団がやってきた。その身のこなしに隙はなく、一目で手練の集まりであることがわかった。
そして、その顔ぶれには見覚えがあった。地味な軍苞を着用しているが、彼らは確か春香の供回りだ。
そう思っていると、男たちの列が二つに割れ、その中から春香が出てきた。
「楽しそうね」
「春香!? どうして、ここに」
「仕事ばかりしていたら、気が滅入ってしまうわ。たまには、私も交ぜなさい。それに、私だけではないわよ」
春香は、後ろを指差した。その方向から、続いて美希と鄂煥がやってきた。鄂煥は大きな酒樽を二つ抱え、美希は手ぶらである。
「真くん、やっほー」
「ずるいですよ、真殿。俺に内緒で、こんな楽しそうなことしてるなんて」
「美希、鄂煥も」
「真くん、元気になったみたいだね。よかった」
「美希……ごめんね、昨日は邪険にしちゃって。せっかく心配してくれたのに」
「ううん、気にしてないから、別にいいの。……うわぁ、ライライ、なにそれ!」
張遼を見つけた美希が、そこにある大鍋を見て眼を輝かせた。
「美希も来たか。これは、羊と豚の鍋だ。野菜もたっぷりと入っている」
「この赤いお肉はなに?」
「それは、羊の血で煮込んだ臓物だ。山椒と岩塩を加えているから、臭みはないぞ」
「いい匂い〜。ねえねえ、ちょっと食べていい?」
「まあ、慌てるな。あともうすこし煮込めば、ちょうどよい具合になる」
「ええー、待ちきれないの」
「料理は、そこらじゅうにある。適当に摘んでおけ。出来上がったら呼ぶ」
「美希殿、あっちに羊の丸焼きありましたよ! 食べに行きましょうよ」
「美希、羊の丸焼き大好き! どこどこ、がっちゃん」
「あっちです!」
美希と鄂煥は、まるで騎兵のように凄まじい勢いで料理の群に突っ込んだ。
それを見て、張遼は苦笑した。
「真、お前も食べて来い」
「はい。……でも、もうちょっとだけ、この光景を見ていたいです」
「そうか」
春香は、供回りに囲まれ、静かに酒を飲んでいる。供回りは全員地味な格好をしているので、真の兵は春香に気が付いていないようだ。
しばらく、楽しそうな兵たちの様子を眺めて、真は兵の輪に加わった。
酔った兵たちが、楽しそうに語らい、酒を飲み、料理を食べている。真は、次々と兵に話しかけられた。
その後、張遼の鍋が出来上がり、春香や美希と一緒に食べた。
山椒がよく効いていて、汗がたくさん出たが、とても旨かった。夢中になって食べ、気が付くと鍋が空になっていた。
広場で裸踊りをしていた鄂煥は食べ損ね、その後自棄酒をして、すぐにひっくり返った。
そうしていると、酔って顔を赤らめて兵が、真のもとにやってきた。その後ろには、同じく酔った兵たちが肩を組んで並んでいた。
「真様、ありがとうございます。こんなに楽しいは、本当に久しぶりです」
「そっか、それはよかった」
「調練は死ぬほど苦しかったですが、それも真様が俺たちを考えてのことだって、みんなわかってました。今は、あの調練を乗り越えられたことが、誇りに思えます」
「ボクは」
続く言葉が出なかった。違う。本当に兵士のことを考えていたわけではないのだ。
それを兵に告げることが、真にはどうしても出来なかった。
「ボクが不甲斐ないせいで、みんなにも辛いをさせちゃったかな」
「不甲斐ないなどと、なにを仰るのですか! 真様は、いつだって俺たちの先頭に立って戦っていたじゃないですか!いつも、一番苦しい思いをしているのは、真様です。不甲斐ないなんて、そんなことは仰らないでください」
兵の言葉に同意するように、回りの兵士たちが何度も頷いた。
「みんな……」
兵の言葉を聞いて、真の視界が不意に揺らいだ。
涙を浮かべるのは、今日で何度目だろう。自分は、これほど泣き虫だっただろうか。これでは、雪歩のことを言えはしない。
兵たちは、涙を流す真を見て一様に困り果てながら、それでも笑みを絶やさなかった。
「本当にありがとう。ボクは駄目だな。こんな、皆に心配されて」
「その通りね、真」
背後から声をかけたのは、春香だった。
「春香?」
「かかかかか、閣下様!?」
春香を見た兵が、その場から飛び跳ねてそう言った。
「様は余計よ」
「はひっ」
気絶するように、兵をひっくり返った。急に驚いて、頭に酒が回ったのだろう。
「真、今のは、兵を統べる将が言うべき言葉ではないわね」
春香の言葉に、真は小さくなった。その通りだからだ。将兵は、間違っても部下に弱気な態度を見せるべきではない。将の弱気は、軍全体に広がってしまうからだ。
春香は、真の眼を見つめていた。優しさと厳しさ。その二つを秘めた、奥の深い瞳だ。真は、そう思った。
「……でも、心に響いたわ。あなたは、それでいいと思う」
「春香」
そう言った春香の表情は、どこか優しげでもあった。
宴は、長く続いた。いつまでも笑い声が絶えず、誰もが笑顔を浮かべていた。楽しい。それが、皆の共通した想いだったのだろう。
月が頭上高くに登りつめ、そろそろ酔いつぶれた兵が横たわり始めた頃、一人の兵が唄を謡いだした。
遠い故郷を懐かしむ、古い民族の唄だ。唄声はしだいに増えて重なり合い、やがて一つになった。
涼州の家族は、今頃なにをしているのだろう。真は、唄に耳を傾けながら、静かに空を仰いだ。
夜空から降り注ぐ月明かりは、ただ柔らかに兵たちを照らし続けていた。







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